日本のコゴメグサの系統に関する一考察
ー 日本のコゴメグサの由来について -
https://euphrasia.sanya-net.ddo.jp

系統樹作成ソフトについて

本研究では、系統樹作成にベイズ統計学に基づくMrBayesを使用しました。
私が作成した「MrBayesの使い方(pdf版)」はここに、あります。ご参照下さい。

【2020年3月3日】
ヨーロッパのコゴメグサを紹介します!  
   2016年から2018年にかけて、ヨーロッパのチロル・ドロミテ地方、スイス、ピレネー地方そしてノルウェーを旅行し、様々なコゴメグサと出会いました。この経験から、やはりコゴメグサの本場はヨーロッパだなと感じています。不十分とは思いますが、何とかそれらの分類をしてみました。上記メニューの最後の項目に追加しておきましたので、ご覧いただければ幸いです。
 ヨーロッパの山地では、当たり前のように様々なコゴメグサが咲き誇っていました。同じ場所に、異なった種類のものが混生したりしているところもありました。
   ヨーロッパの自然の中でのコゴメグサと出会い、本当に幸せな時を過ごすことができました。
 標本分類は不確かなもので、とりあえずこんなものかなという程度です。正確な分類は、とても私の力の及ぶところではありません。

結果概説(要約)

 今回の研究のために、長野県内の3か所からミヤマコゴメグサ、タチコゴメグサ及びヒメコゴメグサを採集、さらにニュージーランドで2種のコゴメグサを採集しました。系統樹の作成のために塩基配列を決定した遺伝子は、核内遺伝子についてはITS、葉緑体遺伝子については、TrnLイントロン&TrnL-TrnF遺伝子間スペーサー、atpB-rbcL遺伝子間スペーサー、matK、およびrps2の各遺伝子でした。遺伝子選択の根拠は、参考文献1ではITS、及びTrnLイントロン&TrnF-TrnF遺伝子間スペーサーにatpB-rbcLスペーサーを加えたデータに基づいて系統樹が作成されていたこと。そして、台湾やマレーシアのEuphrasiaの系統に関する研究の参考文献2では、上記に加えてrps2遺伝子が使われていたこと。さらに、これらの遺伝子情報とは別にNCBIの遺伝子データバンクには主にヨーロッパに分布する種を中心としてmatKの塩基配列情報が登録されていたことです。
 日本国内ではミヤマコゴメグサ、ヒメコゴメグサ、タチコゴメグサをそれぞれについて一種類ずつ、長野県の一地域から採集し、ニュージーランドの種については、南島のミルフォードドラックのマッキノン峠近くでも2種を採取しました。
 得られた系統樹からは、日本のコゴメグサ3種は単系統にはならないこと。さらに、タチコゴメグサは明らかにEuphrasia属の中のEuphrasia節に分類されるが、ミヤマコゴメグサとヒメコゴメグサについては、どちらも現時点ではEuphrasia節に分類されているようであるが、私が得た系統樹からは台湾やフィリピンなどに分布し、Euphrasia属の中では例外的な多年草の種からなるMaleisianae節に近いことが示されました。
 さらに今回の結果から、日本のコゴメグサのルーツは少なくとも2つあるのではないか、と想像されました。一つはヒメコゴメグサとミヤマコゴメグサの分布に至るルートであり、もう一つはタチコゴメグサの分布に至るルートです。そして、前者のほうが数回あった氷期の中では、タチコゴメグサより先に日本に分布し、その後の間氷期の気温の上昇とともに山岳地域の標高の高い高山帯に移っていった。その後、再来した氷期で今度はタチコゴメグサが分布を広げてきて、現在のように標高1400m程度の、ミヤマコゴメグサやヒメコゴメグサよりは標高の低い高原地域に分布するに至った、という風に仮定するとスッキリ説明できるように思います。もちろん、現時点ではそれはあくまで私の想像であって、データの裏づけがある訳ではありません。結論づけるには、今回得られた各種のサンプル数が少なすぎます。さらに多くのサンプルを国内各地域から採集してみないと何と言えないとは思いますが、この仮説があながち無理なものとは思えないのです。
​ 2回の氷期のそれぞれの時期に、北方から日本列島に至り、現在はやはり高山帯の草地に生育しているヨツバシオガマとキタヨツバシオガマに関する研究報告があります(参考文献3、4)。このことも、上記のようなコゴメグサの歴史を考える上で、参考になったことでした。