日本の本州及びニュージーランドのコゴメグサ計5種について、5種類の遺伝子の塩基配列を決定し、NCBIのデータバンクに登録されている既存のデータとあわせてBayes法による系統樹を作成し、日本のコゴメグサの系統関係を調べてみました。
結果に示されるように、日本の代表的な3種のコゴメグサは、台湾やニュージーランドの種のように単系統にはならず、少なくとも2つの系統関係をもっているように思います。一つはミヤマコゴメグサとヒメコゴメグサに至る系統です。これらは、南方の種と関係が深く、ユーラシア大陸に起源をもつEuphrasiaのある種が、台湾、マレーシア、ニュージーランドと南下していく途中で、枝分かれするように日本に分布するようになったと想像しています。そしてその後の温暖化にともない、標高の高い山に避難するように分布するようになり、これがミヤマコゴメグサやヒメコゴメグサの起源となった。
一方、タチコゴメグサの方は、明らかにユーラシア大陸全体に広く分布するEuphrasia節に含まれる種ですが、ミヤマコゴメグサやヒメコゴメグサに分化したものが日本までたどってきた年代よりは、おそらく新しい時代に、日本に南下してきたのではないか。そして、タチコゴメグサの方は前2者よりは標高の低い高原地帯に適応して分布を広げたのではないか、というような想像をしています。
いずれにせよ、タチコゴメグサはEuphrasia節で良いのですが、ミヤマコゴメグサとヒメコゴメグサについてはEuphrasia節で良いのかと疑問を感じます。(参考文献1では、Euphrasia節に入っていました。)
系統樹において、分岐した年代を推定する方法があるようで、これを用いれば多少私の個人的想像の裏づけがとれるかとも思いましたが、分析の方法がよくわからず、これは確かめていません。
核内遺伝子であるITSによる系統樹と葉緑体遺伝子であるTrnL-TrnFとatpB-rbcL(TrnLイントロンおよび遺伝子間スペーサー部)による系統樹が一致しない理由については、参考文献1の中でGussarovaらも述べていますが、これはコゴメグサの種分化が種間雑種形成、染色体の倍数化・異質倍数化、自家受精等によって、短期間で急速に起こったことを物語っているのではないか、と思います。葉緑体遺伝子は卵細胞からのみ伝えられる母性遺伝をしますが、葉緑体遺伝子にもとづく系統樹は樹長が短く、葉緑体遺伝子については分化(変化)は、それほど進んでいないようです。
ちなみに、下の写真3はニュージーランドのミルフォードトラックで2種のコゴメグサを採集したとき、2種の花の形態的な違いが確認できるようにと撮影しておいたものです。葉の形態は2種ともよく似ていましたが、手に持っている種の方が花がひとまわり大きく、花弁の先はへこみがありません。ところが、葉緑体遺伝子のTrnL-TrnFの遺伝子間スペーサー部(817塩基)とrps2遺伝子(533塩基)については、両者の違いはありませんでした。ちなみに核内遺伝子のITSについては689塩基中6箇所で違いがありました。
(ITSはもともと変異を生じやすい遺伝子部位なので、これだけではなんとも言い難いことかも知れませんが・・・。)
いずれにせよ、日本のコゴメグサの系統について云々しようとするなら、もう少しサンプルを集め、OTUを増やす必要があると思っています。
写真3 ニュージーランドの2種 |
|